東北太平洋沖地震にて被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。
史上類を見ない地震と津波によって起きてしまった原発事 故。それによる放射能の恐怖は、誰であれ他人事ではありません。新聞記事やテレビを見ていると、専門の先生方はその影響を胸部X線撮影やCTスキャンと比 較して解説されていますが、医療従事者である私でさえ、曖昧でピンとはきません。
その原因を考えるに、「放射線の単位の定義の問題と、人体への影響の定義の問題がはっきりしていない」からだと思われます。そこで、以下に日々の診療の経験と教科書、文献を紐解いて、理解できたことを説明させていただきます。
一般には、リニアック(直線加速器)でX線を用いて放射線治療をする際には「Gy(グレイ)」という単位を用います。Gyは、単位質量(Kg)あたりに吸 収するエネルギー(Joule)を表しています(Joule/Kg)。なお、前立腺癌治療の際には、45〜84Gyを照射します。また、胸部正面X線撮影 の際には、約0.05mGyを照射します。
一方、放射線安全管理の観点からは「Sv(シーベルト)」という単位を用います。これは、治療ではなく「検査」において「患者さんがどれだけ被曝したか、医療従事者がどれだけ周囲に散乱する放射線(散乱線)を浴びたか」を表す単位です。
一般人の被曝許容量は年間1mSvまで、医療従事者は年間50mSvまでと、法令で定められています。そこで我々は、累積被曝量を計測するために、胸にフィルムバッジをつけてチェックしています。
Svには「局所の確定的影響」を示す「等価線量」と、「人体全体の確率的影響」を表す「実効線量」が用いられます。
「確定的影響」とは、「一定量の放射線を受けると必ず現れる現象」です。脱毛や白内障、最終的には死亡もそのひとつです。つまり、福島第一原発で足下の水から被爆された作業員の方々も、この等価線量が大きかったことで皮膚炎が起こったと考えるわけです。
一方、「確率的影響」とは、「放射線を多く被曝するほど、将来、影響が現れる可能性の高い現象」を言います。例えば癌や白血病などです。
X線の場合、「等価線量」ではGy=Svとなりますが、「実効線量」ではGy=Svとはなりません。受けるダメージの大きさは臓器によって違い、生殖器、 脳、造血器はその影響が大きいからです。従って、胸部X線撮影を例にとると、「等価線量」は0.05mSvですが、「実効線量」は0.03mSvとやや少 ないのです。
また、この事故ではX線の他に「放射性同位元素」も拡散されています。「ヨード(I)131」と「セシウム(Cs)137」です。
いずれの放射性同位元素も、その単位には、放射能の量を表すBq(ベクレル)が用いられます。1Bqとは「1秒間に1つの原子核が崩壊して発生する放射能の量」を言います。ちなみに、昔はCi(キューリー)という単位を用いていました。
このBqとSvの関係は、放射性同位元素によって異なります。ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(マイクロシーベルト)」、セシウムの場合は、「1Bq=0.013μSv」となっています。
「ヨード131」は、バセドー氏病、甲状腺癌の治療のために内服されるβ線です。具体例を示すと、バセドー氏病の治療には500MBq、甲状腺癌では3GBq(3,000MBq)以上のヨードを内服します。
また、「セシウム137」も以前は放射線治療に用いられていたγ線です。リニアックが出現するまでは、コバルト(Co)60が主流でしたが、それよりさら に前は、セシウムの外照射が行なわれていたのです。そして、現在イリジウム(Ir)192で行なわれている腔内照射にも、以前はセシウムが用いられていま した。
セシウム137は、K(カリウム)と同様な分布を示し、放射されてから体外に排泄されるまで150日ほどかかります。ま た、放射線が元の半分程度に弱まるまでの期間である「半減期」に30年も要するため、決して内服はしません。ちなみに、60年経ったら放射能が0になるか というと、さらに半分(元の1/4)になって残ります。
いかがでしょうか。医療においては比較的身近と思われていた放射線ですが、原発事故となると、こんなにも大騒ぎになってしまい、少々驚いています。
もちろん、上で言う「確率的影響」を考えてのことだとは思いますが、皆さん、もっと冷静に……というのは難しいことなのでしょうか?
以上、簡単な説明ですが、今後ニュースなどの情報を見る際の参考になれば幸いです。
※本記事の初出に間違いがございました。
『リニアック(線形加速器)』と記述しておりましたが、正しくは
『リニアック(直線加速器)』となります。
また、『ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(ナノシーベルト)」』
と記述しておりましたが、正しくは
『ヨード131の場合、「1Bq=0.022μSv(マイクロシーベルト)」』
となります。
いずれも現在、記事本文内の記述は訂正済です。
皆様にご心配、ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びし、
ここに謹んで訂正いたします。