去る5月25日、目黒区医師会学術講演会に垣添忠生先生をお招きして、講演「妻を看取る日」の座長をさせていただきました。
先 生は世界でも5本の指に入る膀胱癌治療の大家であり、私も、国立がんセンター泌尿器科医長時代の先生による膀胱癌の論文を熟読していました。その後、同セ ンターの総長になられてからも、先生は年間300編の英文論文を読まれていたといいます。真の「癌治療の最先端」を担っておられたのです。
そのような先生が、癌に冒された奥様の最期を看取る経験をされ、2009年に書籍「妻を看取る日—国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録—」を刊行なさいました。
そこに綴られていたのは、自宅で看取った充足感、その後に襲ってきた喪失感、酒浸りの毎日……そして、立ち直ってきた心と肉体の相互作用。ぜひとも、目黒区医師会会員にこの「再生の記録」と「在宅で看取る充足感と困難さ」を伝えたく、お招きした次第でした。
実際の先生は、想像以上に「自分に厳しく、部下の面倒見がいい」理想的な元国立がんセンター名誉総長であり、また「奥様に優しい」ご主人でもありました。
「最期の瞬間、奥様が手を握り返した感触が、その後の再生の原動力となった」こと、「後悔しない人生を歩んできたし、これからも歩み続けることで、亡くな られた奥様がきっと喜ぶであろう」ことを、お話しくださいました。奥様は今も先生にとってスピリチュアルな存在であり、いつもポケットに奥様の写真を入れ て「今日も頑張ってくるからなぁ」と話しかけていらっしゃるそうです。
添い遂げた連れ合いだからこその、最期の充足感、そして喪失感。悔いなき人生だからこその亡くなられた奥様からのスピリチュアルな励まし、大変参考になりました。
控え室でお話ししたところ、東北で震災に遭われた方々を大変心配なさっていました。実際に東北へ行って避難所生活を送っている方々にお会いになり、その我慢強いことに心動かされたと同時に、苦しみや悲しさを心の奥底にしまっている様子を案じておられたのです。
これからも先生のますますのご活躍を、願ってやみません。また、自分の診療においても、忙しさのあまり、つい雑になりそうなときには、先生のおっしゃった「後悔しない人生」を思い出して、自分への戒めとすることにいたしました。